前回、スーツは一枚の生地から上下を仕立てることで、同じメッセージを全身に行き渡らせる服だと書きました。
では、その全身で表現するメッセージを、どうやって選ぶのでしょうか。
スーツの生地を選ぶ時、多くの人は最初に、色や柄、価格を見ます。
ネイビーが無難だから。
細く見えそうだから。
仕事で使いやすそうだから。
もちろん、それも大切です。
けれど私は、生地選びは、それだけではないと思っています。
生地は、その人が全身に纏う「エネルギー」です。
私たちが外見で伝えている大きな要素の一つが、色です。
色は、物体に当たった光のうち、反射した光を目と脳が受け取ることで知覚されます。異なる色の光は、それぞれ異なる波長・周波数・エネルギーを持っています。
そう考えると、外見の多くを占める生地選びは、色や光が生むエネルギーを選ぶことでもあります。
生地は、言葉より先に届いている
服は、本人が話し始める前から、相手に何かを伝えています。
静かな人なのか。
意志の強い人なのか。
柔らかく人を受け入れる人なのか。
新しいものを生み出そうとしている人なのか。
そのすべてが、生地だけで決まるわけではありません。
けれど、生地の色や質感、光沢、重さは、その人の佇まいに確実に影響します。
深い色には、落ち着きがある。
光沢のある生地には、光を受け止めて返す力がある。
表面に起伏のある生地には、均一ではない人間らしさがある。
軽く柔らかな生地には、身体の動きに沿う余白がある。
厚みのある生地には、その場にとどまるような存在感がある。
言葉にすると同じ「スーツ」でも、選ぶ生地によって、相手に届く印象はまったく違います。
だから生地選びは、外見の飾りを選ぶことではありません。
自分が何を発信するのかを選ぶことです。
高級な生地が、正解なのではない
オーダースーツでは、生地の産地やブランド、細さ、価格が注目されることがあります。
けれど、高級であることと、その人にふさわしいことは同じではありません。
どれほど価値のある生地でも、本人が向かう場所や果たしたい役割と合っていなければ、その服だけが前に出てしまいます。
反対に、華美ではない生地でも、その人の言葉や生き方と一致していれば、強い説得力が生まれます。
大切なのは、その生地が何を語るか。
そして、その言葉が、着る人自身の言葉と一致しているかです。
強く見せたいのか。
安心して話せる人だと伝えたいのか。
変化を起こす人として立ちたいのか。
人を率いるだけではなく、周囲の力を引き出す人でありたいのか。
目的が変われば、選ぶべき生地も変わります。
未来の役割から、生地を選ぶ
私は、今の自分に似合うものだけを探しているのではありません。
その人がこれから、どこへ向かうのか。
どのような場所に立ち、誰と出会い、何を伝えたいのか。
未来の役割から、生地を見ています。
今はまだ、少し勇気が必要に感じる色かもしれない。
これまでなら選ばなかった光沢かもしれない。
反対に、ずっと力を示す服を選んできた人には、柔らかく、余白のある生地が必要かもしれない。
過去の自分を説明するための生地ではなく、これからの自分を迎えに行くための生地を選ぶ。
それが、「外見は未来への予約」ということです。
未来にふさわしい自分を、完成してから装うのではありません。
先に服として纏うことで、姿勢が変わり、言葉が変わり、行動が少しずつ未来へ向かい始めます。
服と人のエネルギーが一体になる
生地の意味を理解せずに着ても、服は人に力を貸してくれます。
けれど、
「私は、なぜこの色を選んだのか」
「この質感で、誰に何を伝えたいのか」
「この一着を着て、どこへ向かうのか」
を自分自身が理解している時、服は借り物ではなくなります。
着る人の意志が服に通り、服が本人の言葉になる。
服から力を借りるだけではなく、服と人の力が一つになる。
私は、そんな一着をつくりたいと思っています。
生地は、服をつくるための材料ではありません。
その人が選んだ、発信する言葉です。
あなたが伝えたいことを、生地から仕立てる
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