前回、スーツが長い時間をかけて担ってきた本質は、「信用」なのではないかと書きました。
では、なぜスーツは信用を表すことができるのでしょうか。
私は、その理由の一つが、一枚の生地から上下を仕立てることにあると思っています。
ジャケットとパンツ。
ジャケットとスカート。
身体の大部分を、同じ生地、同じ色、同じ空気で包む。
それだけで、その人の存在感は大きく変わります。
同じ生地を纏うと、メッセージが全身に行き渡る
ジャケットだけなら、一つのアイテムとして羽織ることができます。
けれど、上下を同じ生地で揃えると、その生地が持つ印象が、身体全体に行き渡ります。
濃紺の梳毛が持つ節度。
フランネルが持つ温かさ。
光沢のある生地が放つ華やかさ。
太いストライプが示す意志。
柔らかく落ちる生地がつくる余裕。
明るい色が伝える開放性。
同じ形のスーツでも、生地が変われば、発する言葉はまったく違う。
スーツは、形だけでメッセージを発しているのではありません。
「何を全身に行き渡らせるのか」を、生地によって選ぶ服です。
だから生地選びは、単なる好みではないと思っています。
その人が今日、何を伝えたいのか。
これから、どんな力を発揮したいのか。
その発信内容を決める行為です。
スーツは、無言の営業ツール
服は、本人が言葉を発する前から情報を伝えています。
どのような場に向かおうとしているのか。
相手をどのように扱おうとしているのか。
自分を、どのような人間だと認識しているのか。
もちろん、服だけで人の中身が決まるわけではありません。
けれど、外見は何も伝えていないのではなく、黙っていても何かを伝え続けている。
だから私は、スーツを「無言の営業ツール」だと考えています。
大切なのは、高級な生地を選ぶことでも、強そうに見せることでもありません。
自分が伝えたいものと、服が伝えているものが一致していること。
外見と、言葉と、行動が一つにつながっている時、その人には無理のない説得力が生まれます。
服の意味を、着る人自身が知っているか
意味を知らずに着ても、服は人に力を貸してくれます。
姿勢を整えたり、自信を補ったり、その場に立つ勇気をくれたりする。
でも、着る人が、
「なぜ私は、この生地を選んだのか」
「この服で、何を伝えたいのか」
「この装いで、どこへ向かうのか」
を理解して纏うと、服は単なる装飾ではなく、本人の言葉になります。
私は、着る人と服のエネルギーが一体になり、その力が二乗になるように感じています。
服に自信を借りるだけではなく、自分の意志を服に通す。
そこまでいって、初めてそのスーツは、その人のものになる。
「揃っている」のは、服だけではない
スーツとは、一枚の布から仕立てられた、ひと揃いの意志。
私が言う「ひと揃い」は、ジャケットとパンツが揃っているという意味だけではありません。
その人の考えと、言葉と、行動が、一つの方向へ向かっていること。
「私は何者で、何を大切にし、どこへ向かうのか」
それを自分自身が理解していること。
これからの時代、誰もがスーツを着る必要はないと思います。
着なくてもよい時代に、それでも敢えてスーツを着る。
その選択自体に、すでにメッセージがあります。
だからこそ、これからスーツを必要とするのは、自分の意志を全身で表したい人なのだと思います。
成功者に見せるためではなく、これから実現する未来を、先に身体へ着せるために。
外見と、言葉と、行動を一つにするために。
それが、私の考える未来のスーツです。
これからのオーダースーツを、ともにつくる方へ
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