スーツを着ている人を見ると、私たちは無意識に、
「きちんとしている人」
「責任のある立場の人」
「信用できそうな人」
という印象を持つことがあります。
けれど、不思議です。
スーツは、ただの布です。
ジャケットと、パンツやスカート。
それだけで、その人の中身まで分かるわけではありません。
それなのに、なぜ私たちはスーツに「信用」を感じるようになったのでしょうか。
はじまりは、今よりずっと華やかな服だった
現在のスーツにつながる装いは、17世紀後半の英国で形を整えていきました。
当時の男性の装いは、長い上着とベスト、膝丈のブリーチズを組み合わせたものです。
ただし、今のビジネススーツのように地味で控えめな服ではありません。
金や銀の刺繍。
レース。
光沢のある生地。
装飾されたボタン。
服は、その人の身分や権威、財力を外見で示すものでした。
V&Aが所蔵する1673年のジェームズ2世の婚礼服にも、金銀の刺繍が施されています。
つまり、スーツの原型は最初から「控えめで誠実な人の服」だったわけではないのです。
むしろ、外見によって力や立場を伝える服でした。
社会が変わり、男性の服も変わった
時代が進むにつれて、男性の服は少しずつ変化します。
華やかな色や装飾を競う服から、暗い色のウールを使い、形や仕立ての美しさを重視する服へ。
19世紀には、スーツを着る人の範囲も広がりました。
服の生産技術が進み、既製服が普及したことで、スーツは一部の特権階級だけのものではなくなっていきます。
Museum at FITは、19世紀のスーツについて、権威や社会的な尊敬を表すものとして、より広い層の男性が着るようになったと説明しています。
ここで、服が伝える「信用」の意味も変わっていったのだと思います。
たくさん飾ることで力を見せるのではない。
装飾を抑える。
身体に合った服を着る。
手入れをする。
その場に合った着方をする。
そうした外見から、節度や自制、責任感を読み取るようになった。
スーツは、社会の中で生きるための約束を、無言で伝える服になっていきました。
スーツは、信用を可視化する装置になった
私は、スーツは「無言の営業ツール」だと伝えてきました。
言葉を発する前に、その人がどんな人物なのかを外見から伝えているからです。
19世紀の社会で、スーツが広く着られるようになった背景にも、同じ働きがあったのではないでしょうか。
私は、この社会のルールを理解しています。
時間や約束を守ります。
感情だけで行動せず、自分を律することができます。
そのような人間であることを、スーツは外見から伝えてきました。
もちろん、スーツを着ているだけで信用できる人になるわけではありません。
それでも長い時間をかけて、スーツと「信用できる人物像」が結びついてきた。
だから今も、重要な場面でスーツが選ばれるのだと思います。
これからの信用は、何によって生まれるのか
けれど、今は、同じ服を着て同じルールに合わせれば信用される時代ではなくなっています。
肩書きがあっても、言葉と行動が違えば信用されない。
立派な服を着ていても、その人の考えが見えなければ心は動かない。
これからの信用は、
外見と、
考えていることと、
話す言葉と、
実際の行動が、
一つにつながっていることから生まれるのではないでしょうか。
スーツは、長い歴史の中で「社会の約束を守れる人」を表す服になりました。
では、これからのスーツは、どんな信用を表す服になるのか。
私は、「私は何者で、何を大切にし、どこへ向かうのか」を示す服へ変わっていくと思っています。
次回は、スーツという言葉が持つ「ひと揃い」という意味から、同じ生地を全身に纏うことについて書きます。
スーツとは、一枚の布から仕立てられた、ひと揃いの意志。
考えと、言葉と、行動が一つであることを伝える服です。
これからの信用を、服として仕立てる
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